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[[最萌支援]]/[[最萌トーナメント:http://www.kitanet.ne.jp/%7Ekazuo-i/saimoe.html]]二回戦Aブロック第3試合(厳島 美鈴 VS 弓削 遙)の支援として張った物です。
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試合開始15分前……[弓削 遙控え室]

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「っっ!!」

控え室の一つ。“弓削 遙”の部屋から、くぐもった声が漏れる。

声は、陰陽頭“土御門 紗綾”の発するものだった。彼女の両手、両足は鎖によって大きく開かれた状態で壁にほぼ固定され、全身には黒い霧の様な、靄の様な物――禍魂――が這い回っていた。

裸ではなかったが、大事な部分には全て禍魂が取り付き、妖しく蠢き彼女を蹂躙していた。

口にまで進入されているせいでくぐもった声しか上げる事の出来ない彼女を、椅子に腰掛け、つまらなそうに眺めている弓削 遙。その足下では、サトリ“神山 琴音”が足を丁寧に舐め上げていた。

彼女らは、遙の玩具(おもちゃ)の一部である。この大会で手に入れた琴音には奉仕をさせ、無様な敗退を見せた紗綾には仕置きを行っている所だった。

禍魂のおぞましい感触に身を捩らせる光景に、いつもならばさらなる嗜虐を加え、遙に興奮をもたらす物であるはずだったが、今日の彼女はそんな気分にはならなかった。

不遜、不敵な筈の彼女であろうとも、次の戦いに対しては虚心でいられようはずもなかった。理想だけを説くあの女、“厳島 美鈴”――一回戦、第十試合。死闘の果てに勝利した夜羽子・アシュレイの許に駆けつけた美鈴は、まだ与しやすい存在であるように見えた。だが……

(一体、どういうことだ。)

二日前、二回戦の選手紹介の時に見た美鈴は、それまでとは違っていた。威風堂々としたその姿は、嘗めてかかれないどころか、むしろ圧倒される感じを――

屈辱であった。完全に見下していた相手に気圧されたのだ。それも、ただそこにいただけの存在に。

カーン…カーン…

鐘が鳴る。戦いが迫っている事を示す鐘が。

足に舌を這わせていた琴音が、身を離す。直後、遙は立ち上がり得物を手に取ると、紗綾の躰を這い回っていた禍魂が遙の手にする七支刀に吸い寄せられる。黒い靄が全て刀に消えると、遙は扉の方を向いた。扉は、琴音が既に開けていた。

「遙さま。いかが……いたしましょう?」

琴音の問いは、禍魂に解放され、ぐったりとしている紗綾の処遇についてのことであった。

心の読めるこの少女は、声に出す必要も、身振りや目配せすら必要とせずに、遙の意志通りに動く。そこが気に入った遙は短期間に従順な奴隷として仕立て上げた。

もちろん、今のような苛つきを読まれてしまっては困るので、そこには徹底的な調教を施し、今や彼女は遙の「御主人様としての意志」のみしか感じる事が出来なくなってしまっている。――図らずも、彼女が望んでいた「人の悪意や欲望を感じずに済む体」になっていたのである。

「あの様な失態を晒した者など構わぬ。壊れるまで犯した後、ナマグサ坊主共に与えてやれ!」

その琴音に、あえて声に出して答えた理由は、後ろの紗綾にも聞かせる為である。この声を聞いた紗綾は顔を上げて、出せるだけの声で懇願を始める。

「ゆ…許して下さい!お許しを……お情けを!」

声を無視し、廊下へと出る遙。琴音が扉を閉じ始める。

「遙様っ!お願いします!……イヤぁ…いやぁぁぁっ!」

扉が閉まり、遙に届く絶叫はその音量を下げる。数秒、そこに立ち止まった後、遙は歩き出した。

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同時刻……[厳島 美鈴控え室]

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控え室の中央で、“厳島 美鈴”は一人佇んでいた。椅子に腰掛け、目を閉じ、無心に、ただ時が来るのを待っていた。

弓削 遙は気づいていなかったが、美鈴は一回戦の時の結巫女の姿ではなく、祓巫女の姿だった。だが、その身が発する気は以前を凌駕していた。見る者が見れば、以前まで見られた迷いが消え去っているのが判るであろう瞳を開いて、美鈴は静かに立ち上がる。

美鈴は、内に宿る力を感じていた。彼女が背負った、想いの力。それは、一通の書簡によってもたらされた、温かな力。

トーナメント予選に於いて、彼女の「理想」に賛同してくれた人達は全て戦いの場を去った。最も頼りにしていた、阿羅耶識最強の拳士“各務 柊子”でさえも。

この事は迷いとなって美鈴の気に翳りを落としていた。自分は間違っていたのではないか――。第二戦に遙と戦うとあって、その思いはますます強くなっていた。同じ阿羅耶識同士ですら争って……一体何を為そうというのだろう。

ひとり、自問を繰り返す美鈴の心の壁を取り去ったのが、その差出人不明の書簡――。差出人の記述などはどうでも良い事だった。そこに込められた想いが、彼女を信じ、彼女を支え、彼女と共にある想いが。彼女を迷いから解き放った。

カーン…カーン…

鐘が鳴る。戦いが迫っている事を示す鐘が。

祓串を手に、控え室を発つ。視線の向こうにあるものを見据え、決意を胸に、美鈴は歩き出した。

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試合開始8分前……[選手入場口・白虎]

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廊下を歩み、戦いの舞台、その入り口へと向かう遙。と、そこに待ち受ける人影が2つ。

符術師“呉 瑛礼”、仙女“瑪瑙”。共に阿羅耶識の幹部のひとりである。特に、呉 瑛礼は阿羅耶識の全軍の指揮を執る大役を担っていた。

尤も、遙に言わせれば「古くさい戦略戦術を戦わせるだけの頭でっかち」に過ぎないわけだが。阿羅耶識上層部に於いて、格段に戦闘能力の低い彼女らと違い、現場を転々とすることの多い遙の愚痴ではあるが、見下している部分があるのは事実だった。

「弓削 遙……よもやとは思うが、裏切り者の美鈴如きに負けるなよ。」

そんな呉 瑛礼の言葉に、鋭く切り返す。

「言われなくとも判っておるわ。それより、己の身を心配したらどうだ?SAIMOE...私が優勝したおりには、予選すら突破出来なかった貴様等は……」

「貴様っ。」

瑛礼の視線と遙の視線が激しく交差する。と、瑪瑙が間に割って入る。

「まあまあ、二人とも。こんな所で気を散らしている場合では無いでしょう?」

それでも、少しの間だけ睨み合いが続いたが、遙が瑪瑙の方に向く事で無益な争いを終わらせた。瑪瑙はごそごそと懐からなにやら取り出すと、

「いくら貴方といえども、厳島 美鈴の前では虚心には居られない様ですね。心を落ち着けなさい。そうでなければ、勝てる者も勝てなくなってしまいます。……これを。」

そう言って、遙に差し出した。差し出された勾玉を認めると、訊ねた。

「ご忠告痛み入る。……これは?」

「饒速日命より伝わる、十種の神宝のひとつだそうです。病を防ぎ、傷を癒す呪力がこめられており、生玉と呼ばれています。」

手にした勾玉の説明をする瑪瑙。瑛礼は、渡す物を渡してさっさと行くぞ。と不機嫌な声で瑪瑙を急かした。一,二秒生玉に目をやっていた遙だが、入場口の方に向き直り、瑪瑙達に背を向けると

「そのような物は要らぬ。私にはこの太刀と――この右手があれば十分だ。」

と言って歩き始めた。

「なっ、…っ、もういい行くぞ瑪瑙。」

その背中を睨み、舌打ちすると瑪瑙を促して瑛礼もここを立ち去ろうとした。瑪瑙は、遙の右手に宿る物を見抜こうとしていたが、もう一度瑛礼に促され、この場を後にした。

その右手を強く握り、遙は一言こう呟いた。

「美鈴……容赦はせんぞ。」

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同時刻……[選手入場口・青龍]

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廊下を歩み、戦いの舞台、その入り口へと向かう美鈴。と、そこに待ち受ける1つの人影。

「持ってきたよ。美鈴ちゃん。」

差し出されたそれを受け取り、恭しく飲みほすと、そのひとの方に向き直った。

「ありがとう、夜羽子ちゃん。」

ヴァンピレス“夜羽子・アシュレイ”。二回戦進出を果たしている彼女も、一回戦の時のヴァンパイア・ロードの姿ではない。癒しの力で彼女を苦しめたクララ・クロオーネとの血飛沫舞う激しい死闘の果て、力を出し切った彼女が美鈴の介抱によって意識を取り戻した時、彼女は力を失っていた。

優しく微笑む美鈴に、夜羽子は訊ねた。

「美鈴ちゃん……大丈夫?」

「え?」

「今日の戦い、以前は、悩んでたみたいだったから。」

心配そうな顔で美鈴を見つめる夜羽子。美鈴は入り口の方を見て、答えた。

「もう、吹っ切れたから。夜羽子ちゃん、みんな……私を応援してくれてるのに、私が悩んでたら、しょうがないものね。」

真っ直ぐに、決意を宿した瞳。だが、「みんな」と言った時、ほんの微量だが、その瞳に翳りが映ったのを夜羽子は見逃さなかった。ほんの微量。だが、戦いにおいてはどんな些細な事でも致命となりかねない。

「もう、行かないと…」

体ごと入場口へ向き直り、歩を進めようとする。その姿はいつもの美鈴に比べ、幾分急いているように夜羽子には見えた。

一,二歩進んだ美鈴の背に、ふわっ、と体重がかかる。後ろから美鈴を抱きしめた夜羽子は、額を背に押し当て、震える声で訴えた。

「無理は、しないでね…。私にちからをくれて、無茶はできないんだから……。美鈴ちゃんが死んじゃったら、元も子もないんだからね……。」

背中に感じる体温を感じ、張り詰めた美鈴の気は、柔らかな、いつものそれへと変わった。温かい夜羽子の手に、手を重ねる。

そのまま数分を過ごし、夜羽子の手を離して向き直り、夜羽子の顔を上げ、目尻に浮かぶ涙を拭いて、顔を近づけ、唇を重ねた。

ふれあう唇を離し、互いに頷くと、

「それじゃ、今度こそ、行かないと。」

「うん。いってらっしゃい……続き、待ってるから」

最高に優しい笑顔を見せる。振り返ると、曇りのない決意を宿らせた瞳で戦いの舞台を見据え、確かな歩調で歩き始めた。

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試合開始時刻……[舞台]

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「青龍の方角、祓巫女“厳島 美鈴”!」

「白虎の方角、凶巫女“弓削 遙”!」

両者が舞台に姿を見せると、大きな歓声が上がる。

互いに視線を交差させ、舞台の中央へ歩を進める。

「制限時間は138分、対戦相手を降伏、または死亡させるか……」

お決まりのレフェリーの台詞を聞き流し、遙が口を開く。

「その姿…まさか全力でない貴様と戦う事になるとはな。嘗められた物だ。」

「それは…貴女とて同じ事でしょう?」

ふん、遙は鼻で嗤った。これはハンデだ。と。

「一対一の戦いでは、貴様の全力など八割で十分だからな。だが…今の貴様であれば、もう少しくれてやっても良かったかな?」

「始めなければ、わからないものですよ。」

揺らぎのない瞳が、遙を見つめる。口ではこう言っていたが、油断のない瞳で、美鈴を見据える遙。

「……及び場外の相手に対する攻撃、りせっとちゃんの使用は認められて……」

レフェリーが禁止事項を詠み上げる間、二人の視線は互いの眼に向けられ、微動だにしない。既に、戦いは始まっているのだ。

「……両者よろしいですね?では、所定の位置へ……。それでは只今より!theSuperiorAnybodyInMostOftheEstablishment,S.A.I.M.O.E.トーナメント二回戦、第三試合、厳島 美鈴”VS“弓削 遙”……」

祓串を、七支刀を構える。美鈴は、ただ祓串を前に向けた形を。遙は、開始と同時に駆け出す為の形を。静まりかえる会場に、レフェリーの声が響いた。

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「試合……開始ぃぃぃぃぃっっっっっ!!!!!」

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ゴウゥゥゥゥン…………

試合開始を告げる鐘が鳴る。と同時に、弓削 遙が駆ける。試合開始時点の互いの距離は10メートル。その10メートルを一気に駆ける。厳島 美鈴は、祓串を構えたまま微動だにしない。

目前、1メートル程まで近づいた遙は、太刀を大きく振りかぶると――

後ろに跳んだ。同時に、先程踏み込もうとしていた領域、美鈴の周囲から白い光が立ち上る。

「くっ……」

ただ祈るだけでここまでの気を……。苦々しさを感じながら、遙は立ち上る清浄な気を見た。間合いから離れるだけのつもりだったのが、いつのまにか元の位置近くまで下がってしまっていた。

「だが、そのような護りの気で、私を倒す事は適わんぞ!」

再び七支刀を構えると、美鈴のそれとは対称的な、黒い、禍々しい気が遙の体を覆う。

美鈴は、祓串を眼前に構えると、眼を閉じ、意識を集中し始める。立ち上っていた白い気が、祓串に集まり、美鈴はその手を少しずつ、光を掲げるように、上へと持ち上げてゆく。

遙の体を覆った黒い気は構えた太刀に絡みつくように蠢いた。全ての気が太刀に集まると、気合いの声と共に、再び10メートルの距離を駆けだした。

少しずつ、少しずつ持ち上がってゆく美鈴の両手の中で、光が形を整え、祓串の先へ伸びてゆく。手の動きと同様に、少しずつ、少しずつ。

「何をするつもりかは知らぬが、事が為る前に臓腑を抉り取ってくれるわっ!」

手にした七支刀を突き込む形に構える。祓串を掲げる美鈴の姿が近づく。

「………っ」

手にした祓串を掲げ、そこに集まった気に意識を集中させる。駆けてくる遙の姿が近づく。

ゴァァァッ!

七支刀に絡みついた気――凶暴で、強大な禍魂が咆吼を上げる。

ィィィィ……

祓串に集まった光の気――清浄で、強大な神気が輝きを増す。

咆吼を上げた気が、七支刀の先に集い、遙の得物は、二倍の黒き刀身を持つ長物へと変化する。

一気に間合いが詰まる。光輝は美鈴の手の内で未だその形を整えていない。

(取った!)

美鈴は間に合わない。黒い刀身が美鈴の玉のような肌を貫くのを予見し、口元を――

ガキィッッ!

遙の禍刀が舞台を抉る。前につんのめる体を押しとどめ、黒く伸びた禍魂を七支刀の刀身へ引き戻す。

祓串を打ち下ろし、神気によって禍刀を弾いた美鈴は、再び祓串を上段に構えると、始めて、前へと踏み込んだ。

構えた神気の剣は小刀程度の長さでしかない。まだ間合いではない――が、遙は反射的に太刀を掲げた。

「はーっ!!」

気合一閃。踏み込むと同時に上段に構えた祓串を振り下ろす。間合いの外で振り下ろされたそれを、剣気を放出する攻撃であると予想した者は多かったであろうが、真を見抜いた者は殆どいなかったであろう。

オオオォォォォ……………

切り裂かれる苦しみに、禍魂が唸りを上げる。美鈴の振り下ろしたそれは、神気の剣の先にもう一つの刃を顕していた。

「くっ……はぁっ!」

剣を握る手に力を込める、荒魂の巫女と同等の力を示し、透明に輝く刀身を押し込む。

(…!?馬鹿なっ!)

咆吼を上げる禍魂と、打ち下ろされた気とは現在、拮抗した状態にある。この場合、得物を持つ者同士の力比べとなる筈であった。体勢が不利とはいえ、美鈴の細腕が荒魂を憑依させた遙を上回るはずもない。ならば……どうして私の方が押されているのか!

冷や汗が額を伝う。少しずつ剣を押し込んでくる美鈴の表情は、本気の貌だった。眼前の敵を切り倒す意志を感じた。躊躇も逡巡も無い、覚悟を決めた瞳を見た。アクエリアンエイジの戦乱に於いて、ついぞ覚えた事の無い死の恐怖が頭を掠める。

ぎりぎりと得物を押し込んでゆく美鈴。剣の使い手同士の戦いなら、ここで勝負はついていたかもしれない。が、普段身に寸鉄も帯びぬ身の悲しさか。少しずつ、隙が生じ始める。

必死の遙が、その隙を見逃す筈が無い。美鈴の右足に体重が偏り始めたのを認めると、禍魂をそこに向けて放った。

バシュッ

美鈴の、その清らかな足に絡みついた禍魂は一瞬で浄化され、かき消える。が、その一瞬で十分だった。禍魂を一つ放ったせいで抵抗が減り、先程までより押し込む速度が増したのも美鈴のバランスを崩すのに一役買った。

バランスを崩す事で生じた隙に遙は太刀の柄の方だけを持ち上げ、角度をつける。

ギャジャッ!

美鈴の刃と遙の禍魂が擦れ合い、大きな音を立てる。死の刃から逃れた遙は再び間合いを離し、危機を脱した。

呼吸を整えた遙は、神剣を、そして、見えない剣を携える美鈴を見た。

体勢を立て直した美鈴は、七支刀を手にし、禍魂を従える遙を見た。

互いの視線が交差する。

「貴様、その力……余程佳い御酒を口にしたようだな。」

神々しい光を纏う美鈴の先程の力の源を言い当てる遙。美鈴の顔に微笑みが浮かぶ。

(遠くから……夜羽子ちゃんに、持ってきてもらったものだもの。)

美鈴にとって、力となる佳きものであるのは当然の事だった。微笑みの表情に対し、苦々しい表情を向ける遙。生死を賭けた戦いの中で、何故そのような表情が出来る!

「まあ、それはいい……。だが何だ、貴様の手にあるそれは!」

美鈴の携える神剣、いや、その先にある見えない切っ先を指差し、遙は問うた。

「何故貴様が、サイコソードなど!」

響めき。E.G.O.や、戦闘経験の多い者は気づいていたが、会場のあちこちでざわめきが起こる。

一歩、前へ進み、美鈴が答える。

「私は、一人ではありません。」

神剣を、サイコソードの切っ先を真正面――遙へ向ける。

「私は、私を信じてくれるひとの想いと共にここに在ります。」

小刀ほどの大きさに留まっていた光が、その大きさを、強さを増す。

「だから私は、そのひとたちの信じた物の為、そのひとたちの想いを胸に、そのひとたちの力と共に戦うのです!」

光は、サイコソードを包み込み、一本の刀となった。完全な姿となった神刀を手にした美鈴を、彼女の内から生まれ出(いずる)気が覆う。その気は、阿羅耶識の赤い気ではなかった。白き光、青き輝き、そして緑の煌めきが混在する、鮮やかな気の光。

「成る程。そういう事か。」

その光を見つめ、遙が呟いた。

「……確かに、彩り鮮やかだ。だがな美鈴。貴様のそれには美しさが足りぬ。調和という名の美しさがな。」

遙の体から、禍魂ではない、赤の気が生まれ、彼女を覆う。

「見よ、この調和のとれた美しい光を。…所詮他など、従えれば良い事!我ら阿羅耶識の築く調和こそが、最もうつ……っ!?」

語気を荒げ、一歩前へ踏み出した時、遙に異変が起きた。

「っ…く、しぃ……ああっ!?」

言葉を詰まらせ、一声叫びを上げる。同時に、七支刀から夥しい量の黒い気が放出され、、それは瞬く間に遙の体を覆い尽くした。

「な…何?」

さしもの美鈴も、これには驚きを禁じ得なかった。遙を覆った黒い気は、遙がその身に宿らせる古き荒神や、彼女が抑えることの出来る禍魂ではない。より荒々しく、より禍々しき、禍神とでもいうべき強大な神の気であった。

その気は、次第に薄れ消えていったが、何処に消えたのかは、一目瞭然だった。黒い光を宿した眼が、白い神気を宿らせた美鈴を見、叫ぶ。

「即ち、貴様を犯し、殺し、我が正しき事を示してくれん!」

高らかに宣言すると、右手に持っていた太刀を左手に持ち替え、美鈴との距離5メートルあまりを駆けた。

タン、タン、ダン!!

会場全体が息を呑んだ。神刀を構え、待ち受けていた美鈴も、完全に虚を突かれた。5メートルあまりを、たったの3歩で駆け抜けるなど、誰が予想し得るであろうか。

ブン!

鋭く突き込まれた太刀を、半ば偶然ながらかわす。遙を斬り捨てる好機ではあったが、禍神に取り憑かれた今の遙を斬るのには抵抗があった。観客の中には、美鈴が迷いを見せた事に気づいた者が数人居た。――少女も、その中の一人だった。

ブォッ!

二撃目、鬼の様に鋭い爪を持った右手が美鈴を襲う。後ろに飛び退き、二撃目をかわす。美鈴の行動が完全に悪手である事に、今度は多くの観客が気づいた。――少女は、独り言ちていた。「やっぱり、優しいんだ…。でも、だから、なのに…。」

タン

彼女を追って、遙が跳ぶ。構えた七支刀に、先程とは比べものにならない量の禍魂がまとわりつき、その枝の一本一本から半ば実体化した禍々しい大蛇のような気が合計8つ。

その気が、美鈴の頭をめがけて伸びる。神刀を翳すが、8つの気を全て防ぐ事など出来ない。剣で防げなかった残りが、美鈴に殺到する。空中では回避は不能。観客の殆どは、美鈴の眼前に迫った死を予見した。――少女は、ひとり呟いた。「……ゴメンね、美鈴ちゃん。」

祓巫女の頭部が禍神によって破壊されるかに見えたその時、信じられない出来事が起こった。頭部に伸びてきた禍魂を、上顎と下顎で挟み込み――即ち、口で受け止めたのだ。
着地すると同時に、噛み砕かれた禍魂は、神刀によって受け止められた分と同じに、三度間合いを離した七支刀の元へ身を縮める。遙は驚愕の瞳で美鈴を見た。美鈴の身にも異変が起きていた。

「アーーーーッ!」

大きく吼える美鈴。その瞳には紅い光が宿っている。

「そうか……サイコソードを出した割には長く動けると思っていたら、ヴァンパイアブラッドだとはな……。面白い。その妖魅の力も、清浄なる神気も、想いの力とやらも、全て打ち砕き、絶望で犯し、恐怖で喰らい尽くしてくれるわ!」

左に八岐大蛇を従え、右手に鬼の手を持ち、禍神をまだ制御し切れていない禍巫女が叫ぶ。

「やれる物ならやってみなさい……想いと共に受け取ったこの力を。血と共に流れる絆の力を。そして、私の信念を、心を、打ち砕けるものならば!」

想いを剣に変え、誓いを血に流し、信念を身に纏う祓巫女が叫ぶ。

両者、じりじりと間合いを詰める。

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どちらも、動かない。ただ距離だけが縮まってゆく。

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少しずつ、少しずつ。

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互いが、間合いに入るまで。

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互いが、間合いに入ったその瞬間、

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「はあぁっ!」「てゃぁぁっ!」

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死闘の、真実の開始が告げられた――――。

RIGHT:Written by [[4MBs:水無月神魔]]
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-[[4MBs:水無月神魔]] &new{2003-05-07 (水) 02:15:08};
~見たら分かるとは思いますが、上のは実際に投下した物を整形してます。&br;確か半日くらいかけてやっとこ半分(試合開始まで)書いて、投票が始まってしまったので急いで後半を書いたような気が……。すんごい唐突だったり、駆け足だったりするのはその為……。ああ、即興でぱぱっと書ける方々が羨ましいと思ったなぁ。&br;色々不満があるので修正したい。試合後も考えてたけど書けなかったし。
-[[4MBs:水無月神魔]] &new{2003-05-12 (月) 01:54:51};
~とりあえず2chに投稿した時の[[原文:http://www.4mbs.net/AquarianWiki/?plugin=attach&pcmd=open&file=MisuzuVsHaruka.txt&refer=%BD%F1%B8%CB%2F%BA%C7%CB%A8%BB%D9%B1%E7%2F%C8%FE%CE%EB%BB%D9%B1%E7%A1%CA%A3%B2%B2%F3%C0%EF%A1%CB]]を添付。
-[[4MBs:水無月神魔]] &new{2003-05-17 (土) 22:06:27};
~遥と琴音の関係については、[[2ch萌えスレSage2(過去ログ):http://game.2ch.net/cgame/kako/1029/10291/1029102366.html]]の>>49氏(=高砂大反転 ◆RA6aU/Dk氏)のSSを参照(w

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