試合には賭け事が付き物。この過酷なトーナメントとて例外ではない。

予選を勝ち抜いた強豪たち同士の戦い。多くの試合は拮抗していた。どちらに賭けるか、悩む者も多い。試合毎のオッズを見れば一目瞭然だ。
だが、傍目に勝敗が見える試合も存在する。東海林VS外園などが良い例だ。ぱっと出のルーキーがベテランにあっさり勝てるほど甘くはない。多くの者はそう考え、それは事実であった。

だがそもそも、この観客は賭け事のために会場に居るのではない。賭け事はあくまで祭りの一行事にすぎず、その為多くの者が、その場の気分で対象を決めていた。だが、この試合においては、多くの者が確固たる自信を持って賭の対象を選び、その結果、奇妙な試合が始まろうとしていた。オッズは、ほぼ五分五分。

クララ・クロオーネ((クララって何処の人だろう?)) VS 夜羽子・アシュレイ

方やおよそ戦いには不向きに見える、優しげな少女。
方や誰もがその名を耳にしたことはある、ダークロアのトップエース。

多くの者が、夜羽子の勝利を確信していた。
だが、それと同じ位の数の観客は、クララの勝利を確信していた。

方や呪われた血を流す死を撒く統治者。
方や消えゆく命を救う死を解く癒し手。

勝負は、一方的な物になるだろう――そう、考える者が多かった。
吸血鬼が上質の餌を口にするか、それとも何も出来ずにその呪われた身を灼かれるか。

二つに割れた観客の見守る中、試合の時は刻々と迫っていた……。

「両者、前へ!」


開始と同時に、夜羽子のマントが舞う。舞台を駆け、一直線に揺れる紅の軌跡。鋭く光る爪を伸ばし、吸血鬼が迫る。
開始と同時に、クララに魔力が集まる。文を唱え、呪に揺れる聖なる衣。清く光る書物{バイブル}を開き、魔女は唱う。

魔力の放出。踏み込んだ夜羽子の足が止まる。
クララを中心に数メートル程の地面が白い光に覆われる。

「Resurrect field{蘇生領域}か。これで奴は動けんな。」

「アンデッドにあれは苦しいですからね〜。」

観客席、中でも特等席にあたる席で交わされる会話。WIZ-DOMの最高導師{マスター}である“ステラ・ブラヴァツキ”と“ディーナ・ウィザースプーン”である。

光の中を前に進む夜羽子。熱した鉄板の上を歩いているかのような苦痛。

だが、二、三歩進んだところで足を止めた。血の色をした眼を、爪を、牙をクララに向ける。

「ハアッ!」

魔力の放出。血の色をした波動{スカーレット・ウェーブ}が灼けつく光を放つ舞台の上の空間をその元凶へ向けて貫く。クララが書物{バイブル}に手をかける。

「Pure light in the heaven becomes our shield now one time...」

新たなページをめくり、新たに唱えられる呪文{キャストされるスペル}。クララを護るかのように微かな光が彼女の頭上に現れる。夜羽子が右手を振りかぶる。

「しゃっ!」

気合いを発すると共に右手が振り下ろされる。と同時に、数本の槍と化した血の色の波動{スカーレット・ウェーブ}に加速がかかる。眼前に迫った兇気にクララは、ただ在るがままでそこにいた。紅い刃がクララの聖衣を突き抜けようとしたその瞬間、光が、彼女を包んだ。

「なっ……どうして!?」



「Sacred boon(聖なる祝福).」


「Pentagram of Heaven and Earth{天地重魔法陣}!」

「とどめ、ですかね〜」

「ガァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」

叫び声が会場に響く。

----
――時は21世紀初頭。大いなる変革の刻、「アクエリアンエイジ」に入り、数年が経過していた。次々に覚醒する能力者たち。激化する抗争。新たなる勢力。そして、「マインドブレイカー」の台頭……。血を流し、流され、肉を削り、抉られ、骨を断ち、砕かれ、狂い、犯され、死に、殺され、それでも尚戦いに身を投ずるは、栄光への通過儀礼か、尋常ならざる身故の不幸か。

平和を願う祈りは、戦乱の中で押し流されてゆくばかりであった……。

屋敷に着いた彼女を出迎えた巫女の姿に、彼女は驚きを禁じえなかった。巫女装束、というのは一般人からすれば奇異なものなのかもしれないが、殊更驚くものではない。彼女の所属する組織に於いてはむしろ多数派だといえるし、彼女自身もそれに身を包んでいる。

「お待ちしておりました。“弓削 遥”様。」

鈴を転がすような声。一瞬だけ別人と疑ったが、この声はまぎれも無く――

「日御影……静流…?」

驚いた理由は3つ。こうして会うのが久方ぶりであること。以前はここに居る筈ではなかったこと。そして、生きていたということ――あのとき、最後の一撃で本陣は――

「どうぞ、お上がりください」

“日御影 静流”の声に半ば呆けていた意識を戻し、屋敷の中へと歩を進める。

「長旅のようでしたし、もう日が晩いので予め寝床を用意しております。」

「ああ……有り難い。」

返事をしながら、遥は過去の出来事を思い起こしていた。あの凄惨な光景、悲惨なる戦い――

遥か宇宙の彼方より飛来した侵略者、銀河女王国連邦太陽系方面艦隊、通称「イレイザー」と、地球の各勢力との戦いは、イレイザーの撤退によって幕を閉じた。だが、最終決戦において各勢力が受けた被害は甚大なもの…特に、日本・中国・アジア地域と中南米に大きな勢力を持つ、東方呪術連盟「阿羅耶識」は、組織の再編に苦慮していた。

それは決戦の終焉に猛り狂った破壊の光。イレイザー旗艦「パニッシュメント」の最期。暴走した動力炉の崩壊によって、自らを護る僚艦や戦闘機、ソロネをも巻き込んで轟沈したその断末魔の乱射。過剰に供給された兇悪なエネルギーの奔流は数々の命を呑み込み、各勢力の部隊を壊滅させた。その一撃が阿羅耶識の本陣を襲ったのだ――

「こちらが、遥様の寝所になります。湯浴みの際には、あちら側の……そう、奥の方から……はい、そうなります。」

「ん、明朝は…日が昇ってからか。わかった御苦労。」

「お疲れ様でした。では、ごゆっくりお休みくださいませ。失礼いたします。」



-瑪瑙との邂逅

「お前……何故ここに!?」

その人物は遥よりも格上の地位にいる者ではあったが、遥の口調は〜〜〜〜なものであった。

「相変わらず――」

対して、どちらかというと呆れを含んだ口調で返す、大陸の衣装に身を包んだ女性。

「口の利き方を改める気は無い様で、貴方は変わりませんね、弓削さん」



-会談

「ああ、知っている。今組織立った動きができるのは各務を筆頭とした、拳法家達だけだとな。」

「我々も個々に組織の再編を進めているのだがな。神社(ばしょ)毎の連携はおろか、連絡すらも取れないことが多い。戦力の補強も間に合うのかどうか……、ふっ。」

「こんな状況だ、全く……このような事を気にかけるような性質(たち)では無かったのだがな私は。」

「こちらも、四海の竜王を始めとして様々な神格、仙道、道士等をあたっているのですけれど、今の所招聘に応じていただけたのは東海竜王だけ……」

「お互い、戦力不足か。」

「多くの人材を喪いました。術士、仙道、巫女、陰陽…あっ」

しまった、そう思い途中で言葉を止めたが遅かった。遥の表情に深い翳り――

「…気にすることはない。最早過ぎた事…」

俯き、声が震えていた。それでも、はっきりと言った。

「多くの死の一つに過ぎないのだから……」


-被害情報

「四神の巫女、二人は討死、一人は行方不明、もう一人は……」

「……WIZ-DOMに捕縛された後、拷問によって、死亡……」

拷問、と言ったほうがよほど聞こえがいい。あれは……最悪だ。
体中の関節は外され、両腕は砕かれ、その上で暴行を受けていたのだ

「抜刀隊・甲/乙/丙/丁壊滅。部隊長を含め、未帰還。里神楽「凪」、部隊は御神楽「結」へ統合、はWIZ-DOMに捕獲後、これを奪還。但し、再起不能。」

(まだ…ましだったのかもしれないな、紗綾……)

そう呟くも、やはり思い起こす度に胸が痛む。

-回想――紗綾――

「ちぃっ、このアンドロイド(木偶人形)ども!」

獲物を振るう隙さえ与えぬ連続攻撃。格闘タイプのアンドロイド(タイプG)による攻撃に吼える遥に向かって、空中から別のアンドロイド(タイプV)が襲い掛かる。

「縛!」

空中のアンドロイドの動きが止まる。さらに、後方から射撃の機を伺っていたアンドロイド(タイプA)の動きも止まってゆく。援護が無くなった格闘タイプが後ろに下がり間合いを取る。が、そこに隙ができた。

「防御が甘いわ!」





-

「あの時以来、ここに来たのは初めてだからな。」

-悪夢

「紗綾っ!?」

振り返る。その場にへたり込んだ紗綾の姿が映る。最早自分で動くことは叶わない程の消耗。気付かなかった。気付けなかった。顔を上げる。口元が動く。何を言っている――?光が、紗綾を。そして仲間達を。飲み込み、痕すらも遺さず、消し去った。――何を言おうとした?崩れ落ちる遥自身も、光の中に飲まれて消えた。

「!!」

急激に、現実へと引き戻される感覚。荒い呼吸、熱い身体、震えるような悪寒。そして、覚醒する意識。日本阿羅耶識における意思決定機関であり、最高執行機関でもある、最重要拠点「御殿」。その最高執行部よりの召集に応じてやって来た遥に宛がわれた一室。

-大奥

気配――

「お待ちしておりました。どうぞ、こちらへ」


-急変

「美鈴……?」

「美鈴!?おい…どうした!?……」

「誰か!!」叫ぼうとした遥

-告白

「この通り……最早私は自分の脚で、自分の身体を支えることすら適わぬ身。」

-かつての主

「賢しくなった物だな、美鈴」

「何も知らぬ生娘であったというのにな。今では精神干渉に色仕掛け……いやはや、恐ろしい女だ。」

「ええ、色々と仕込まれましたから……貴方に。」

「私が与えたのは、ほんの少し……精神干渉の力だけだったはずだがな。他は、オマエ自身が身に付けた物では無かったか?私を……悦ばせる為に、な。」

「」

----

「ラフィン隊、カレスト隊、前進!!」

「ゾアンハンターっ!!」



「離脱しようとした幹部3名の頸をこれに。後は我がマスターへの供物故……。」

「わかった。行って良いぞ。」

「子爵、あの物達は…?」

「マイスター・ハイヤーン((Jabir ibn Hayyan. ジャービル・イブン・ハイヤーンがモチーフ))配下のアサッシンどもだ。何やら興味を引く物でもあったのか、此度の掃討戦に付いてくる事になっていてな……。」

「自分はそのような話聞かされておりませんが?」

「知っていたのは私だけだ。」



「WIZ-DOMによる支配がなった暁には、まずは奴らから潰してゆかねばならんな……」

----

男がその存在に気づいたのはある雨の夜だった。

粗末な段ボールのなかで、うずくまり、小さな身体を震わせ、微かに鳴いて、男を見上げた。
いつから――昨日までは、全く気がつかなかった。男の他にも多くの者がここを通っていたはずだった。敷き詰められた新聞紙の日付が目に止まった。二月は前のもの、その日からここにいたとは限らない。だが冬の冷たい空気の中、相当の間ここにいたであろう事は想像に難くなかった。誰も気づかなかったのか、あえて無視していたのか。
身体を壊すといけない。そう言って、男は少女を連れて行こうとした。放っておいたくせに――自分が捨てたわけではないが、そう責める声が聞こえた気がした。

2DK程の男の部屋は小ぢんまりとしてはいたが、きれいに整理されていたからかさほどの狭さは感じられなかった。タオルを渡し、身体を洗うように言った男は困惑した表情を見せた。濡れた身体をそのままに、男の袖をぎゅっと握って、上目遣いに男の目を見つめたまま、少女は動こうとはしなかった。
早くシャワーを浴びるようもう一度言い、男は一歩足を進める。少女と男の距離は開かなかった。冷めた手が震えていた。仕方無く、男は自分で洗ってやる事にした。

身体の汚れを熱い湯で洗い流すと、少しは落ち着いたのか男の言う通りに身体を拭き、服を着、食事を取る。暖かいスープを飲むと少しは余裕が出てきたか、興味深げに部屋を見回し始める。食器入れ、台所、収納、棚……二人分のコップ、二人分の歯ブラシ、そして、写真の無い写真立て。
視線を回す少女の前に焼き魚と米、味噌汁が出される。同じ食器に乗って、テーブルの向かい、男の座る前にも並ぶ。男が促し、口を付けてから遠慮がちに少女もそれらを口にした。食事を終えると手早く食器を片づけ、隣の部屋のベッドへと少女を促すと、自分は毛布と夏用の掛け布団の間に転がり、もう寝なさいと言うと壁の方に身体を向けた。



そこは演算の部屋。記憶の倉庫。予測の箱庭。過去の道標。
追憶と思考と無によって彩られた時間を凌駕する瞬間。
それは現よりの刺激によって動き、幻の世界となる。
男は絵を画いていた。画く題は『笑顔』。だが、完成が近づき表情にさしかかった所で男の身体が沈む。はずみで描きかけだったキャンバスが倒れ、筆や絵の具が消えてゆく。
まだ終わっていない。まだ残せていない。手を伸ばす。キャンバスには届かない。まるで流砂のように、体が吸い込まれていく。抗った。抗うだけの力が在った。引き寄せる流れなど簡単に断ち切って、再びキャンバスへと手を伸ばす。
掴んだキャンバスが、手の中で爆ぜた。

意識が覚醒を始める。夢と現の境界で、ある名前の欠片を呼ぶと、男は落下感と共に境をこちら側へと飛び越えた。
いつもの部屋、いつもの夜、いつもの――。
覚醒間もない意識は、いつもの今と違う点を認識するのに少々の時間を要した。この部屋に失われた風景。その中の物理的な一点が蘇っていた。全く異なる存在だったが、他人(ひと)の体温がそこに在った。
一人でいることへの怯え故か、暖かいベッドよりも寒い毛布で、男の袖を握って震える事を選んだ少女の目が、男の眼を見ていた。寂しさ、怯え、忘れられない心の傷痕、そういったものを含んだ少女の眼を、男の目が見つめた。
何かを懇願するような目。そこから視線を、袖から少女の手を外し、体を起き上がらせると、ベッドへ戻るように告げる。男にできることは、せめて暖かい食事と寝床を用意してやることくらいだった。
なのに、少女はベッドに向かおうとはせず、男に顔を近づけてきた。少しの苛立ちを込め、再度ベッドへと促す。少女は少しうつむいて悲しげな顔をした後、急に顔を上げ、舌を伸ばして、男の頬を撫でた。
愕然とした。少女が見ていた物、自分が目を逸らした物、少女のザラっとした舌が攫っていった物、もう一方の頬に残る雫。少女は情けを欲していたのではなく、慰めようとしていたのだと、気づいた。

今度こそ、少女はベッドの方を向き、男から離れようとしていた。男の手がそれを追った。ふと、男の動きが止まった。夢を思い出す。今日見た夢、昨日見た夢、それ以前……どれも、最後は同じ。男には力があった。だが特別な力――切り伏せる為の爪、引き裂くための牙、追い詰めるための脚――が、掴んだ物を壊してしまう。男は躊躇った。その手でまた壊してしまうのか。何かを得る為だった、何かを守る為だった、その力は何処へ行ったのか?
少女が振り向いた。頭を下げ、お辞宜をする。ありがとう。微かに聞こえた、初めての言葉。哀しみの中に居た彼女が、恐らくもう長い間作ったことは無かっただろう、上げた顔の――。
失った物、欠けていた物、忘れかけていた物、忘れまいとしていた物、夢の中で画き続けた表情。ずっと昔、まだ力に気づいていなかった頃、大切だった人に自分の気持ちを打ち明けた時――心からの、ありがとう――の、
笑顔。

伸ばした両の腕で、少女を抱きしめた。力の篭もっていないその腕で、ぎゅっ、と強く抱えた。
ずっと探していた。あの笑顔は、何時の物だったのか。
ずっと探していた、守るための力は、特別な物じゃなかった。
ありがとう。男は言った。同じ言葉を言った二人の少女の前で、男だけは、涙を流していた。


しばし、そのまま時が流れた。男の頬を流れる涙が落ちる。と、少女が首を回して男の顔を見、先ほどのように舌を伸ばしてそれを拭った。ぺろ、ぺろ…とくすぐったい感触が男の涙を攫う。男は目を開いた。見上げる、少女の顔が逆さに映る。舌を這わせるのを止めた少女の目が男の目を見つめる。潤んだ瞳、濡れた唇、赤らむ肌、早まる鼓動。少女が目を閉じた。二人の距離が縮まる。男は目を開いたまま、少女に口付けた。自分にくれた分だけ、少女に与えてやろう。男は思った。

唇を離す。目を開く。互いに互いを見つめる。何かを懇願するような、それでいて哀しさを湛えた瞳(め)。自分の目はどう映っているだろうか?男は思った。きっと、さっきまでは酷い顔をしていたに違いない。けれど、今は大丈夫だろう。この少女(こ)が癒してくれたから。そして今度はこの少女の番。哀しい色を、取り除いてやりたい。
男の腕の輪から少女が腕を抜き、男の首に絡め、引き寄せた。耳元に口を寄せる。
「あたた…めて…ほし……」
小さな声に、男は頷く。寂しさも、哀しみも、忘れさせよう。そう言って男は少女を強く抱きしめ、キスをした。今度は、お互い目を閉じていた。
どちらからだったか、絡めた舌を解き、重ねた唇を離す。離れた舌を繋ぐ唾液の糸がイヤらしかった。
少女の手が、男の首筋から頭部を弄(まさぐ)る。もう一方の手は男の腕を握ると、口元まで持ってゆき、丹念に指を舐め始めた。ぞくり。男の背筋に走る感覚。少しの快感と、大きな悪寒。年端の行かないこの少女は、今まで誰に、何をさせられていたのだろうか?
男は苦笑した。誰にかは分からない。だが、何をかと言えば、今からやろうとしている事に他ならないのだ。覚悟を決めろ。自分で自分に云う。今から、少女を抱くのだと。
身体に回していただけだった左手で,少女の着ている寝間着のボタンを1つ外す。そのまま手を寝間着の中へ滑らせ、小振りな乳房に被せる。少女の舌が這う右手、その一本の指を少女の口腔に挿れる。柔らかな感触、絡みつく感触。左手が弧を描き始める、右手を動かし、弄(もてあそ)ばせる。
少女の呼吸が荒くなり始める。男の動きも次第に大胆になってゆく。右手を口はら離すと、寝間着の隙間に滑らせて両の手で乳房を愛撫し始める。指への奉仕から開放された口唇を、男の唇が塞ぐ。少女の身体が震え、男の手の中で小さな蕾が勃起し始める。それを摘み、弾き、押し、弄(いじ)り、再び双丘全体を捏ねるように撫でる。
男の手が動く度、少女の口から切なげな声が漏れ始める。眉根を寄せ、感じている事を伝える。瞳を潤ませて、もっともっととせがむ。唇が塞がれると、身体全体を震わせ、悦びを示す。
不意に、少女が唇を離し両手を上へ伸ばす。男が首を下げてやると、しがみつくように、そこに腕を回す。切なげな声が次第に長音になりmそして――少女が軽く達する。
声を上げ、背中を反らし、断続的に身体が震える。数秒の後、ふっ、と力が抜け、男にもたれかかる。少女の胸に置かれたままの手から、鼓動が伝わってくる。自分の鼓動とどちらが早いだろうか。少女にそれが伝わっていることを感じながら、男は少女の唇に軽いキスをした。


ぼふっ
ベッドが沈み、少女を受け止める。寝間着を脱ぎ、下履きだけの姿になると、男もベッドへと上がる。サイズの合わない――少し大きい――少女の寝間着に手をかける。一つづつ、ボタンを外し、小振りな乳房を露にする。弄られていた(イッた)所為か、そこに触れる度、ぴくん、ぴくんと敏感に反応する。「もぅ…ヤなの……ぉ」その言葉を受け、手を触れるのを止め、男は…桜色の突起に舌を這わせた。きゃう、と悲鳴を上げ、涙目で男を見る少女。その目を見てから、男は少女の腰に手をかけた。

----

チュンチュン、チュンチュン……
日の昇ってまだ数十分。厳島美鈴の朝は早い。
がらがらと雨戸を開け、朝日を受けて光る濡れた庭木、朝の挨拶を交わす雀たち、雲一つ無い空を見上げると、腕を頭上に上げ、体全体で伸びをする。
「ん〜〜雨も上がって、今日はいい天気みたいですね。」
誰と決めたわけでもない毎朝の日課。朝一番に全ての雨戸を開け放つと、いつもの日常が始まる。
はずであった。

「きゃあ〜〜〜〜〜〜っ!!!」
屋敷に悲鳴が響き渡る。と同時に地響きのようなすさまじい音が鳴り響く。
どどどどどどどど…………
「「「美鈴っ!」さん!」姉さまっ!」
美鈴の籠もっている手洗いの前に、3人の少女が集結する。
「「「どうしたっ!」しました!?」したのっ?」
少女達の声と共にがたがたっ!と美鈴の目の前の扉が揺れる。
「だ、大丈夫です!ちょっと寝惚けてただけで、なんともありませんから!」
破壊させて雪崩れ込んできそうな勢いに、あわてて返事を返す。
「本当に大丈夫ですか?……なら良いですけれど。」
「美鈴姉さま、朝が早すぎるのよ。もう少し遅くしても……」
「寝惚け眼の美鈴も……いいかも。」
大丈夫と聞いての思い思いの反応。数十秒、扉の前の三人が動かなかったのは、最後の一人の所為だろうか?
「(遥さんは、今日も相変わらずですね……。)」
遠い目をして、他の二人に呆れられているだろう事を想像して、クスリと笑いがこぼれる。いつもの風景。いつもの朝。だけど……自分自身を見下ろす。盛り上がった股間に在る物は、まぎれも無く、

「ふぅ……」
昼下がり。自室に戻った美鈴は、一人ため息をついた。理由は言わずもがな。突然股間に生えてきたアレである。午前中はさしあたって問題は出なかったが、かといって放っておける物ではない。そもそも呪いの一種なのだろうから、何の問題も出ないはずが無い。
心当たりはあるのだ。恐らくは――
「先日の、あの時なの…かな?」
女魔(サッカバス)や淫魔(インクブス)の退治を行った時を思い出す。末期に放たれた波動を祓いきれず、自分へと放たれた分だけは――
「避けきれてなかったのかしら……」
いずれにせよ、淨化しなければならない。問題は起きなかったが、全く問題が無かったわけではないのだ。縁側で栞とぶつかりそうになって、そのまま話をしていた時、突然コレが大きくなり始めたのだ。その場は隠しとおせたが……。
幸い、今日昼からは特に用事も何も無かったので部屋に篭もっていられる。天照法で淨化できるかどうか。とりあえず下を脱ぐと、露になった下半身に。本来在りえざるべきモノが垂れ下がっている。
「まさか、自分についてるのを見つめることになるとは思いませんでした……。本当は、好きな男性の……きゃ。」
ソレをまじまじと見つめながらどのような思考に行き着いたのか。顔を真っ赤にして立ち尽くす(かたまる)美鈴。と、そのとき
「美鈴さん、いらっしゃいますか?」
部屋の前から、沙綾の声がかかる。
「あ、はーい。」
停止(フリーズ)していた思考を戻し、返事を返す。と、次の一言で別方向に思考が停止してしまうことになった。
「お食事時に落ち着かないご様子でしたので気になって…今よろしいでしょうか?」
「どぅ……」
どうぞ、と返そうとして、今の自分の格好を思い出した。鏡の前で下半身裸でしかもそこには立派なモノがぶら下がって……
「ぅえっと、ちょ、ちょっとままってててくださいーっ!」
とにかく、急いで下に穿かなければ。噛み噛みで返事を返しながら、足元に落とした袴を…取ろうとして…足を引っ掛けて…
ずでん!
「だ、大丈夫ですか!?」
派手な転倒音に思わず襖を開けて中を覗いた沙綾は――
「いったーい…あ、沙綾さんまだ開けちゃ……」
沙綾の方を見ようとして身を起こしたのがむしろ致命的だった。沙綾の目に一つの異形が飛び込んできて――
「……ふぅっ。」
「あ……気絶したいのはこっちですよぅ……」



「朝の悲鳴はこういうことでしたのね。そういえば、御手洗いの方は……」
「それは…普段通り……」
気を失っていた――といっても数十秒程度だが――沙綾が目を覚ますと、質問などをされるよりも先に、一通りの説明を(かくかくしかじか)した。状況は理解してもらえたようで、今は問題のモノを前に相談を始めている。
「別にコレに置き換わったとかではないみたいなの。くっついただけみたいな感じ。けど、触ると感触はするの。」
「そう、です…か。」
美鈴の方はもう平気な顔でソレに触れたりしているが、沙綾の方は先ほどからソレに視線を向けようともしない。気づいた美鈴が問い掛ける。
「そっか、沙綾さんは後ろにいる事の方が多いのよね?」
「はい。」
前線に立って戦っていると、色々な敵と戦う事になる。特に獣人や鬼など、ダークロアだと全裸で向かってくる者も少なくは無い。そういった関係で――
「だから見慣れてないのね。」
「というより、美鈴さんが慣れすぎてるんです。」
きっぱりと言う沙綾。それもそうである。まじまじと見つめて手に取って観察などできるのはとても普通とは言えない。
「遥さんが原因なのでしょうけれど。」
「うぅ…そんな気はします……。」
一時、遥に従って、というよりは連れて行かれて「鬼が島殴りこみ(カチコミ)」や「狼少年100人斬り(注:言葉どおりの意味です)」などの歯茶目茶な事をしていた時期があった。そのおかげで得た物は多かったが……
「と、とにかく何とかして淨化しましょう。私もお手伝いします。」
「そ、そうですね。ありがとうございます。」
と、淨めの準備を始めようとしたとき。ぱたぱたぱた…と廊下を早足で向かってくる音が聞こえる。今度は慌てず、急いで袴を穿くと再び沙綾と向かい合うように座った。
「美鈴姉さまー。食器洗いの洗剤が切れちゃったんですけれど、まだありましたー?」
栞の声が襖を通ってくる。洗剤がまだあったか思い出そうとした途中で、思考は中断されてしまった。
「(何で……栞ちゃんの声を聞いたら、大きく……!?)」
「(まぁ……)」
突然の事に目を見張る沙綾と、困惑して思考が纏まらない美鈴。とりあえず、無いかもしれない。と栞には返事をしておく。
「分かりましたー。じゃぁ後で買ってきますねー。」
と言ってまたぱたぱたと駆けてゆく。が、二人とも固まったまま動かない。
「…………」
「…………」
美鈴の方は「どうして?何で?」で思考停止状態、沙綾はというと袴を押し上げているソレを注視している。と、沙綾が口を開いた。
「とりあえず、淨めを…」
「そ、そうですね。」
返事をして、少し経ってから袴を脱ぎ、固く、大きくそびえ立つソレを露にする。
「すごい……」
「っ…………」
先ほどまでと違い、今度は美鈴のほうが羞恥に頬を染め、沙綾の方が興味深げに見入っていた。
先ほどまでとは比べ物にならない威容。それを見られているという恥ずかしさもあったが、何より美鈴を羞恥に震わせていたのは、衝動。吐き出してしまいたい、そう思わずにはいられない強い衝動。
「(なにを……吐き出すの?)」
男の性のメカニズムなど知らない美鈴には、
その衝動が具体的に何を示すのかは理解できてい(わから)なかった。が、それが恥ずかしい事だとは容易に想像でき(わかっ)た。
「そ、そんなに…見ないで…くださ、い……」
「あ…ご、ごめんなさい」
あわてて視線を逸らす。急いで立ち上がろうとして沙綾は足を――崩れた態勢で眺めていた所為で痺れていたのか――もつれさせた。
「きゃ」「えっ、あん」
どたっ、ばたっと、二回音が響く。意識がぼんやりとしていた美鈴まで、巻き込まれて倒れてしまったのだ。
大丈夫ですかと問うた沙綾に、平気ですと答える美鈴。二人とも動かなかった。沙綾の上に覆い被さるように転んだ美鈴の股間が、ちょうど沙綾の臀部に当たっていた。
「(あ、熱い……)」高鳴る鼓動。
「(何なの?もう……!)」抑えきれない衝動。
先に動いたのは沙綾だった。臀部に手を回し、美鈴の熱いモノに触れる。あぅっ、美鈴が喘ぎを漏らす。
「美鈴さん、コレは、普通じゃ淨化できないかもしれません…」
そう言って、ソレを撫でる。沙綾の手が動く度にソコから頭へと伝わる感覚――あまりに強く衝撃とも呼べる――に、美鈴の意識は半ば朦朧とし始めていた。
「え、それは…ァッ、どう…いうッ……?」
「呪いがここまで具現化するのは珍しい事で……しかも熱とか、触れた感触まであるというのはもっと珍しくて……それはつまり、この呪いが非常に強いものである事を示していて……きっとそれは、呪いをかけた者の本能とか、存在の根源に近い、縁の深い呪いだからで……」
普段の沙綾とは違って、長く、要領を得ない回答。その間も、沙綾の手は美鈴のモノを撫でまわし続けていた。衝撃が朦朧とした意識を打つ度、あっ、あっ、と喘ぎ声が上がる。
「ですから、コレは…美鈴さんじゃなかったらもう、おかしくなってるのではないのかという位のもので……」
そこまで言った所で沙綾の手が止まる。襲ってきた衝撃が止み、息をつく美鈴。
「はぁっ、はぁっ…お、おかしくって……?」
呼吸が荒い。散々熱い威容を弄(なぶ)られていた美鈴は勿論だが、何故か沙綾の呼吸まで荒くなっていた。
「この呪いは…私たちが慎むべき…行為に駆り立てるもので……それで、この強さなので…よほど強い精神の持ち主で…なければ……たしかに、そう…することでも呪いは解けるとは思うのです…けど……みだ…らな行いに…手を…あぁっ!」
説明の途中で感極まった声を上げる沙綾。何時の間にか上気した肌が、淡い赤に染まっていた。
沙綾の手が止まったため、少し平静さを取り戻した美鈴は身を起こして心配そうに声をかけた。
「ご…めんなさい、みすずさん……私のほうが…のろ…いに…もう、我慢…が……」
息も絶え絶えに答える沙綾。美鈴の目の前でそのお尻が揺れ、取り戻しかけた平静さが一瞬でかき乱される。ごくり、喉が鳴った。このまま続きを聞くのは良くないように思えたが、身体を動かせなかった。
「みすずさんの…モノで、私を…」
淫靡な空気が場を満たしかける。が――
「おか」
ガラッ。襖が開き、
「何やってるのっ、貴方達はっ!」
怒気が場の空気を一掃した。



「……で、赫々然々(かくかくしかじか)だったというわけね?」
「はい……」
先ほどまでとは一転、緊張が部屋を包んでいた。胡坐をかいて座る遥の向かいで、美鈴と沙綾の二人は正座させられていた。先ほどまで威容を誇っていた美鈴のモノは、遥の怒気に怯えたかのように縮こまってしまっていた。
「それで、呪いを解こうとして逆に呪いにかかる所だったと?」
「はい……っ」

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